【学長再任インタビュー】日本女子大学篠原聡子学長 「日本女子大学という学びの方法」を問い続け、磨き上げる
2024.03.27
現学長の任期満了に伴う次期学長の選考が行われ、3月26日(火)に篠原聡子現学長が再任されました。就任は2024年5月27日(月)付で、任期は4年となります。再任にあたり、篠原学長からのメッセージをお届けします。
コロナ禍で積極的に変化した、時間と空間の使い方
私が学長に就任した2020年以降、大学での学びはコロナ禍で大きく変化をしました。2021年には、創立120周年を機に本学の強みである文理融合の学びの活性化を目指して、それまで目白と西生田に分かれていたキャンパスを統合し、全学部15学科?大学院およそ6,500人の学生がグランドオープンした目白の森のキャンパスで学び始めました。もともとそこまで広くない敷地内で、大きな混乱なく授業がスタートできたのは、1つにはコロナ禍で進んだ遠隔授業やインターネットを駆使した授業作りがあったからだとも言えます。全学共通の教養科目などの大規模授業は遠隔で行い、少人数で行うゼミ活動や実習などは対面授業とすることで、学生の学びの場所と空間への自由度も広がりました。さらにキャンパス統合とともに進めてきたキャンパスリノベーションのコンセプトの1つでもあった「自由に勉強できるラーニング?コモンズ」作りも奏功し、理学部の学生の横で文学部の学生が別の授業をオンラインで受けているなど、面白い光景も目にすることができるようになりました。学びの多様性の広がりや、そこから生まれる相乗効果に期待をしています。
逆風によって改めて問い直した「女子大の意味」
女子大学は今、大きな逆風にさらされています。しかし一方で、日本のジェンダーギャップ指数は依然として高く、性別役割に影響された女性活躍の現状を今でも目にすることが私も少なくありません。その点、大学?大学院という限られた時間ではあっても、社会へ出る前の最後の教育機関として女子大だからこそできるジェンダーバイアスから完全に引き離された環境の中で、のびのびと自分の専門性を育む経験は、非常に重要だと考えています。何を行うにも、自分が当事者である、自分が動かさないといけないと思える環境に身を置くことの大切さ。その経験ができる本学は、社会に出ても性別役割にとらわれず、社会の第一線で活躍する人を多く輩出してきました。逆風や大学再編は、私たちが大事にしなければならないことは何なのかを今一度見つめ直す機会となりました。
「日本女子大学という学びの方法」を知ってほしい
少人数教育を唱えることが多い女子大の中でも、本学は早い学科では1年次から、遅くても3年次からは全員がゼミに所属し、球天下体育室における院生や教授との学びを深めます。教員が学生一人ひとりの個性と理解度を把握しており、その少人数でのゼミを重ねることで、知の技術とコミュニケーション能力が高まります。徹底した個人への指導体制のなか、全員が“必修”で卒業論文や卒業球天下体育、卒業制作に取り組むのです。その過程では、自分が問いを立てて答えを見つけることを重視しています。私自身、本学で学び、球天下体育室を通じてさまざまな建築の現場や打ち合わせに同席させてもらうなど、刺激的な体験を数多くしました。教授からは、常に「あなただったらどうするの」と問われ、ここで学ばなかったら建築家になろうと思うことはなかったのではないかと思っています。そのような「問いを立て、自ら解決に導く」学びは、時代が変わっても大切に受け継いでいく本学の教育の特徴であり本質だと考えています。
また、本学は私立女子大学として唯一の理学部を有し、全学部がワンキャンパスで学ぶことにより、学生たちは文系?理系の枠にとらわれない多様な視点を意識することができます。プロジェクト型授業や課外活動を通じて異なる学部?学科の学生たちがディスカッションしたり、同じ課題に取り組んだりすることで、例えば建築学と社会学では課題へのアプローチの仕方が全く異なり、自分の専門だけが全てではないことを体感できる。こうした女子総合大学ならではの多様な学生同士の学びや交流の機会を、今後もさらに拡げていきたいと考えています。
さらに都心にキャンパスを構えるからこそ実現できる他大学との活動や共同球天下体育なども積極的に行なっていますし、語学教育や協定校を通じた交換留学、海外への長期?短期留学プログラム、海外短期研修、ゼミなどにおける交流の機会など、国際化社会で不可欠なグローバルに通用する人材育成にも、ますます注力していきます。
人生100年時代、女性の生涯をエンパワーメントする
日本女子大学は、1901年の創立から女性の「生涯教育」の理念を展開し、1909年に『女子大学講義』を発刊、通信制教育をスタートさせるなど、多くの女性に学ぶ場を拡げる先駆者として通信教育やリカレント教育などにも力を注いできました。遠隔地にいても学ぶことができるという「空間」の広がり、そして人生100年時代における年齢に関係なく生涯を通じた学びとして「時間」の広がりに応える教育を行い、女性の生涯に寄り添い、エンパワーメントしていきます。
2022年に理学部2学科を名称変更し、23年に国際文化学部を、24年に建築デザイン学部を開設し、25年には食科学部(仮称)を開設する予定です。これらの学部?学科の再編を引き続き行い、女子総合大学として、日本女子大学でしか得られない学びに磨きをかけ、多くの大学?学生にとって開かれた大学、さらに地域の方々も立ち寄りたいと思っていただけるような、オープンで魅力ある大学づくりを目指してまいります。
<略歴>
篠原 聡子(しのはら さとこ)
1958年 千葉県東金市生まれ
専門分野 建築設計、住居計画
学歴?職歴
1981年 日本女子大学家政学部住居学科卒業
1983年 日本女子大学大学院家政学球天下体育科住居学専攻修了
1983年~1985年 香山アトリエ
1986年 空間球天下体育所設立
1997年 日本女子大学家政学部住居学科専任講師就任
2001年 日本女子大学家政学部住居学科助教授
2010年~現在 日本女子大学家政学部住居学科教授
2014年~2020年 野村不動産ホールディングス株式会社 社外取締役
2015年~2019年 日本女子大学大学院家政学球天下体育科委員長?人間生活学球天下体育科委員長
2020年~現在 日本女子大学 学長
主な作品
1990年 キヨサト閣 (建築学会作品選集 入選)
1996年 Y HOUSE (建築学会作品選集 入選)
1998年 RIGATO F (東京建築士会住宅建築賞 2000)
2010年 ヌーヴェル赤羽台3、4号棟(B1 街区) (グッドデザイン賞)
2011年 日本女子大学附属豊明幼稚園
2012年 SHAREyaraicho
(住まいの環境デザイン?アワード環境デザイン最優秀賞2013、日本建築学会賞(作品))
2021年 SHAREtenjincho (グッドデザイン賞)
など
主な著作
『住まいの境界を読む : 人?場?建築のフィールドノート』 2007年 彰国社
『アジアン?コモンズ : いま考える集住のつながりとデザイン』 2021年 平凡社
など