新生 理学部へ ?理学部開設30周年を迎えて? 奥村 幸子 理学部長インタビュー
2022.11.21
新生 理学部へ 奥村 幸子 理学部長インタビュー
新生 理学部へ
今年、日本女子大学理学部は開設30周年を迎えました。1948年(昭和23年)、家政学部の中で家政理学科一部、家政理学科二部というかたちで設置され、1992年(平成4年)に理学部として独立しました。
理学部はこの節目の年に学科の再編に取り組み、数物科学科は数物情報科学科へ、物質生物科学科は化学生命科学科へと名称を変更しました。名称変更の理由を一言でいえば、『名は体を表す』。自然科学を重要視し、領域横断型の学びを実践するなど、教育内容をわかりやすくするのが主な目的です。たとえば数学と物理だけでなく現代に欠かせない「情報」も学科名に含め「数物情報科学科」とし、「物質生物」は、よりダイレクトに「化学生命科学科」としました。
新しくなった2学科の特徴をご紹介します。
■化学生命科学科「生体機能実験室の蛍光顕微鏡システム」
家政学部の時代から、実習や実験では顕微鏡が活躍してきました。現在でも本学の創立当初に使っていた顕微鏡が一台保管されています。
現在、超微構造学、生物学概論実験、細胞生物学実験、超微構造学実験の4科目で主に「蛍光顕微鏡システム」を使用しています。ただの顕微鏡ではなく、パソコンやディスプレイと連携し、最大40名が同時に自分のサンプルを観察できる最新のシステムで、学術論文レベルの画像まで取得できます。コロナ禍の中、蛍光顕微鏡システムはオンラインの講義でも非常に活躍しました。
■数物情報科学科「AIの領域にまで広がりを見せる情報教育」
理学部設置当初、情報教育は、情報の基礎、論理、処理方法、計算機の原理の学習、ワープロや表計算ソフトの実習などを内容とする3科目からスタートし、現在はコンピュータのハードウエア、ソフトウエア、ネットワーク、セキュリティ、情報理論、人工知能(AI)など、情報分野の発展に伴い幅広い科目を提供するようになりました。近年整備した人工知能の関連科目では、AIの処理を行うアルゴリズムだけでなく、プログラミングスキルの向上もめざします。そのような最新の処理を支える数値計算法や統計処理は、コンピュータを用いて数学や物理学などの問題を解くために発展してきました。今ではその応用が広がり、社会のさまざまな問題を解くために利用されています。
そのような背景から、AIやデータサイエンスを理解する人材が、文系や理系、進路や業界を問わず、あらゆる分野で強く求められています。これに対応するため、数物情報科学科では積極的に「AI?データサイエンス教育」を取り入れています。また、理学部の教員が中心となって大学全体の情報教育も推進しています。例えば、キャンパス統合を機に、「AI、データサイエンス、ICT教育認定プログラム」を整備し、2021年度から実施しています。このプログラムの応用科目群では、AIと倫理の関係についても取り上げています。数値的なデータの分析だけでなく、さらに重要なそのデータに含まれる性別や国籍などの個人情報の取扱いや、分析結果を差別なく捉える倫理的思考も併せて学修します。またこのプログラムの基礎科目群が文部科学省の「数理?データサイエンス?AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されています。
変えるべきところ、変えてはいけないところ
さて、全国の私立?国立の理学部に進学する女子学生の数はこの10年変化なく28%であり、この数字は先進国の中でも大変低いという状況は憂慮すべきことです。しかし、これは日本の女性が世界に比して理系の分野で活躍できないということでは決してありません。
女性が日本の社会で活躍できる環境は、ゆっくりとですが整いつつあります。男女雇用機会均等法や育児休業法は、女性が仕事を続けやすくなる背景となりました。日本のジェンダーギャップは、日本人の深いところにある意識?無意識に関わっているとも感じます。つまりその部分が変われば、日本の女性がよりいきいきと活躍でき、より多くの女子学生が自分の興味?関心にしたがって理系の分野を選択できるのではないでしょうか。日本の現在のような状況だからこそ、本学の「女性を社会の中で生きる一人の人間として育てる教育」が重要であり、より広く社会に知っていただくべきだと思います。
また、予測不能な時代にこそ役立つのが「学問の基礎」です。大学に求められるのは、自分がどんなことで社会に貢献できるのか?を考えられる視野の広さと学問の基礎を使いこなす「基礎力」をつける教育ではないでしょうか。理学部では、複数分野を横断的に学ぶことで、視野を広げ基礎を使いこなす力を養っています。
社会で活躍する理系女性育成のために
理学部では大学の就活支援に加えて、各学科による独自のバックアップを行っています。学科主催での業界(企業)説明会、就職ガイダンス、4年生?修士2年生から就職活動体験談を聞く会を開催し、エントリーシート作成のサポートまでしています。一人ひとりに合った丁寧なサポートにより、単に内定を勝ち取るのではなく、満足度の高い就活になるよう学科一丸となって学生を後押ししています。
会社にフィットできれば必然的に活躍の場が広がりますし、そのOGの活躍により、多くの企業より学科推薦の要望をいただくことができています。丁寧な就活支援も理系女性育成のために大学ができる土壌づくりではないでしょうか。
また、学部から大学院への進学率は約20%(2017~2021年度平均)です。一般的に女子学生は大学院への進学に躊躇する傾向がありますが、理学部では専門的で深い学びへの道を積極的に支援しています。特に、学部生の時と同じ仲間と進学し、不安のない状況で球天下体育に没頭できるのも本学ならではの魅力です。学部学科で共通に使用できる球天下体育設備を整備することで球天下体育室ごとの差をなくし、さらに専門性を高めたい学生のために学べる環境を整えています。
学科の学びを中高生に伝えたい
中高校生にとって理学部は「どんなことを学ぶのか?」「どんな職業に就けるのか?」をイメージしにくいかもしれません。そこで開設30周年企画として、中高生にSNSでご覧いただけるように学科紹介動画を制作しました。先生方が、ご自身が理系を目指したきっかけや学科の学び、就職先などについて紹介する動画となっています。学生と先生の距離の近さや、数学の演習?生物の実験に女子学生が和気あいあいと取り組んでいる姿、学内の設備や雰囲気も垣間見られるカジュアルな動画になっています。得意不得意に関わらず、少しでも理系に興味がある生徒さんやご息女がいらっしゃいましたら、ぜひご覧ください。
※学園ニュースVol.277のインタビュー記事に追記し、再編集したものです。