未知の建築空間設計に挑み、掴んだ自分の強み
2024.03.21
2023年6月から約3か月にわたり開催された「建築学生ワークショップ仁和寺2023」に参加された家政学球天下体育科 住居学専攻修士1年 鳥飼小華さん。
ワークショップでは、「今、建築の、原初の、聖地から」というコンセプトのもと、学生たちが設計敷地である「場」の特性を読み解き、小さな建築空間を1日だけ創出します。2023年は京都市にある真言宗御室派の総本山の寺院である仁和寺を舞台に、参加学生が10のグループに分かれて現地調査からコンセプト?構想?設計提案を経て建築空間を制作しました。本ワークショップでグループ6の班長を務め、「特別賞」を受賞された鳥飼さんに、受賞作品「こゆるり」の制作過程で得た学び、そして将来の夢についてうかがいました。
「建築学生ワークショップ仁和寺2023」で新しい挑戦を
「建築学生ワークショップ」は、毎年6月から9月まで約3か月にわたって行われる長期プログラムです。大学内のチームプロジェクトで培った自分のスキルが、学外へ出ても通用するのか力を試してみたいという思いがあり、今年大学院へ進学をしたことをきっかけに新しい自分に挑戦するつもりで、「建築学生ワークショップ」への参加を決意しました。
6月に仁和寺で行われた最初のワークショップでグループ分けが発表され、私が班長に指名されました。上級生が班長を担うことが多いことから、応募の時点である程度覚悟はしていましたが、気の引き締まる思いでした。
最初のワークショップでは、その日のうちに、仁和寺にある15か所の候補地から自分たちが建築物を作りたい場所を決め、コンセプトやタイトルを考えます。私たちのグループでは、建築場所を仁和寺の玄関口である「二王門」に決め、普段は通過するためにある門を、「ただ通り過ぎるだけでなく、『ゆるり』と立ち止まり、視点を変えて見る」という空間提案をコンセプトに、「こゆるり」というタイトルをつけました。
班長として、さまざまな個性あふれるメンバーの意見をまとめるのは大変な面もありましたが、得意分野が異なるからこそこのようなコンセプトが生み出せたのだと思います。
不可能に挑戦する
私たちの班は、九州大学、岡山大学、京都大学、東京大学、イギリス国立カーディフ大学と遠隔地から参加している学生で構成されていたため、毎週末オンラインミーティングで集まり、コンセプトの具体化や設計の検討を進めました。
7月中に2回の経過発表の場がありましたが、1回目の発表でオブザーバーの先生から、「これはオブジェクト(物体)であって、コンセプトに見合う空間表現にはなっていないね」と講評をいただきました。「君たちが本当に作りたいのはこれじゃない?」と指をさされたのは、書面の端に書き残していた「これは無理だよね……」とあきらめた浮遊物のイラストでした。講評をふまえて、改めて浮遊物をいかに建築物に仕上げていくか、試行錯誤をする日々が始まりました。
力強い門に負けない、見る人に立ち止まってもらえるような空間表現を目指し、門に霞をかけるような半透明の素材を用いて風船を0から作ることに挑戦しましたが、素材選定や、風の影響、風船の個体差、注入したヘリウムが抜けてしまうなど多くの課題に直面しました。「建築学生ワークショップ」では、材料の発注や予算管理も自分たちで行わなければなりません。そのため、大量のヘリウムを調達するために、協賛してくださる企業を募りました。また、学内で実証実験をしていた時にたまたま通りかかり声をかけて下さった卒業生へ即興でプレゼンをし、材料費の一部を支援していただきました。
生かされた生活者の視点からアプローチする建築デザインの思考
私は、福岡の大学で工学系の建築を学び、日本女子大学大学院へ進学しました。設計の参考事例を探しているときに、家政学部住居学科の宮晶子先生の論文に出会い、人の感性に焦点を当てた建築デザインの考え方に惹かれ、宮先生のもとで学びたいと思い切って上京をしました。大学では建物の構造や計画?安全性を考えることから設計へのアプローチを始めていましたが、日本女子大学大学院ではまず「人がどう感じるか」を軸とした、人の生活を基点に建築を考えます。こうした視点は、今回の「建築学生ワークショップ」でも大変役に立ちました。最終公開プレゼンテーションでは、「門を抜ける風で風船が揺れ舞い立って空に浮かんでいる姿は、門の荘厳さに対峙できる建築物の柔らかさと、龍に息が吹き込まれたかのような力強さが共存していると感じた」といった講評をいただき、当初のコンセプトである、建築物を通して『ゆるり』と立ち止まり、日ごろとは視点を変えて風景を見るという門を通過する人への空間提案を評価いただけたことをとてもうれしく思いました。
「建築学生ワークショップ」を通して、自分の強みを再認識することができ、学外でもオペレーターの立場で立ち回ることができた経験は自信につながりました。将来は、妹島和世さんのように、多様な人が快適に楽しく回遊することができ、そこで得られる経験の蓄積から新しい空間の想起が生まれていくような建築物を設計できる建築家になりたいと考えています。